思い立って演劇の公演を観に行った。人気の団体だけれど補助席ならばどの回でも予約可能だったのはやっぱりこういう時期だからだろうか。案内された補助席は客席両脇にあるテラス席の舞台寄りの端で、設置された椅子はないところだから電灯もなく真っ暗だった。開演までは客席の他の部分は明かりに照らされているので私は暗闇から他の席に客が座っていく様子を見渡すことができた。むこうからこちらは見えないというのが何とも落ち着く。私はチケットを買った観客だけれど、少しだけ「劇場側」になったような優越感がある。真ん中あたりの客席だとこんなに他の観客をよく見ることはできない点も、得した、と思った。舞台はもちろん少し見切れるんだけど。知り合いを見つけた人が二列後ろから肩をつついているところや、遅れてやってきた連れが上着を脱ぐ間荷物を持ってあげる人など見ていると飽きない。マスクとフェイスシールドをした係員は二人が各通路の一番前に立ち、同時に優雅なお辞儀をして、会話を控えるように、というのと、終演後は時間差退席の誘導がある、ということを知らせる札を高く掲げてゆっくりと客席の間を移動する。劇場は左右対象だから、私がいる場所と同じ暗闇が反対側にもある。何となくの黒いシルエットに勝手な親近感を覚える。落ち着きますよね、ここ。
あらかた客席が埋まってずっと流れていた陽気な音楽のボリュームが上げられる。暗転。明かりがつくともう舞台側だけの世界だ。