不確定日記(抜歯のさみしさ)

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右側の歯を上下二本抜いた。麻酔をした後はあっけないほど早く、歯科医がペンチのようなもので掴んでぐっと力を入れたと思ったらスポッと抜ける。歯というのは歯茎の骨に刺さっているだけのものなのだという感じがする。歯科医も助手も私より年上らしき女性で、落ち着いて堂々としていた。止血のためにガーゼをギュッと噛んでいる時に「持って帰る?」と訊かれたので深く頷く。「臭くなるから気が済んだらまあ…捨ててね」と言われてなんとも心許なくなる。歯列矯正をすることに決めてからずっと抜歯をすることに緊張していて、それは寂しさだったのだと持ち帰った歯を家で煮沸消毒している間に自覚した。手鍋からキッチンペーパーの上に私だったことのある不格好な二本が転げ出た。麻酔が取れてきても傷は一向に痛まず、そのことが寂しさをさらに強くするような気がした。腹が減った。歯科助手から絶対にうがいだけはしてはならない、と言い含められている。抜歯後に溜まった血液が固まって傷を保護するのだそうで、それを洗い流してはいけないのだ。うがいはもちろん、そのあたりを絶対に触ってはいけないという気がして、チーカマを左側だけにそっと差し込んで食べた。チーカマはこんな時にも便利なのだと知った。おかゆを炊いたが玄米だったので粒が残って、むしろ傷跡に落ちていくようで気が気ではなかった。顔を左側に倒してそろりそろりとスプーンを口の奥まで入れた。二週間後に今度は左側の二本を抜く。

明日のために食べやすそうなガスパチョと蒸しパンを作った