不確定日記(抜けと埋め)

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抜歯痕はまだ赤黒くプルプルしているものの、安定してきた。私の歯はもともと右側が特に乱杭歯で突き出た八重歯が唇を押し上げるのでそこから息が漏れるのだが、近辺にさらに2つ余計に穴が空いたのでどうもスカスカして顔の右下がドットの抜けたモザイク画のように思える。そこからもっと崩れていくのではないかという気がして慎重に動く。台所の蛍光灯が切れたのでホームセンターまで買いに行ってついでに漬物石を見たが、今の自分が4キロの石を抱えて歩けるかどうか不安になりやめた。公園を通り抜けると「考える人」のレプリカに野球帽が被せてあり、以前そこで見た野球帽をかぶった人がいなかった。たくさんの鳩は変わらずいた。漬物石を買わなかったので食材が買える。今容易においしく食べられるものを考えるのはゲームのようで面白い。豆腐と鶏ひき肉、卵とバナナ、薄力粉を買い、帰ってから花巻を作る。粉とイーストを発酵させている間に掃除をした。始終歯の隙間のことを考えているので部屋も隙間と物、というふうに見えてきてなんとなくハンガーラックと壁の隙間を探ったら捨てるかどうか迷ってそのままにした服が出てきたので引き抜いて捨てた。手を洗って花巻の形を作る。発酵生地を触るのはとても気持ちがいい。ふつふつとふくらんだ生地の空気を優しく叩いて抜いてから綿棒で伸ばし、油を塗って巻き込んでいく。どうやら柔らかく流動的なものに飢えていたようだった。二次発酵してから蒸し上がった花巻は思ったよりふくらんでだらしない形をしており、温かく良いにおいで、立ったまま3つ食べた。一度だけ間違えて穴の部分で噛み付いて、ない歯がふかふかの生地で満たされた。買ってきた蛍光灯は間違ったサイズのものだったので、夕方になると台所は暗くなった。

フリー素材みたいだなと思った看板